GOOD STORY.08

麻布十番 たこ十

ADDRESS

AZABUZJUBAN TOKYO

FLOOR SPACE

20㎡

CONCEPT

麻布十番で唯一のたこ焼き店は、木のぬくもりを感じる明るくこぎれいな店構え。白木のカウンターで大阪の味を楽しむ、風情ある店づくりのGOOD STORY

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CREDIT

Designer Shinya Takamine
Project Manager Shinya Takamine

白木のカウンターで大阪の味、麻布風情のたこ焼き店

麻布十番でたこ焼きをやるならこんな店。たこ焼き店がなかったこの街に地元の目線でつくった店舗は、高級感のある空間でありながら誰もが親しみを覚える雰囲気。実は店主の山中智哉さんは産婦人科医が本業。この場所でたこ焼き店を営む心意気を伺いました。

6坪の店舗に、8年の思い

――麻布十番にたこ焼き店をオープンしようと思われた理由をお聞かせください。

山中智哉さん(麻布十番 たこ十オーナー・店主/以下、山中。敬称略):8年前に仕事の関係で麻布十番に2年間住んだときに、たこ焼き店は当然あるものだと思って探してみましたが一軒もなかったんです。たこ焼き屋があったらいいなと思いながら、自分で店をやるなら屋号は「麻布十番 たこ十」だと友人と話していたことがスタートです。

高峯信也(エイケー/以下、高峯):8年前から考えられていたのですね。

山中:結局、そのときは実現しませんでしたが、再び麻布十番で仕事をするようになり、2018年5月にこの場所が居抜きで出ました。麻布十番で路面店は絶対に見つからないと言われていたので本当に幸運ですね。以前、調べたときは「たこ十」は他で商標登録されていましたが、その期限が半年前に切れていたのでこれはチャンス。今、やるしかないと。いろいろあっての、このタイミングだったと思います。

高峯:エイケーと繋がりも、運命めいたものがあったんだなと感じます。

――エイケーに店舗のデザインを依頼した理由は?

山中:ホームページで各施工会社の事例写真を見ていく中で、エイケーがつくってきた店舗の一覧を目にしました。木のぬくもりが感じられ、こういう店をつくりたいと響くデザインがありました。クリニックをつくったときにもデザインの力は大切だと感じていたので、エイケーに相談したのが最初ですね。ただ、エイケーの施工事例では最小でも15坪の店舗だったので、6坪でもやってもらえるのか問い合わせました。そこで、高峰さんから「面白そうですね。ご縁を感じます」と回答をいただいたんですよね。

高峯:それまでは業態的に広い店をつくることが多かったのですが、小さい店も話があればやらせていただくスタンスです。飲食店で6坪は私としても最小だったことは確かです。
限られたスペースで動線や機能を確保するために、ミリ単位の設計と工夫が求められました。

高級感とさりげなさのバランス

――店舗デザインにどのような要望を出されましたか。

山中:麻布十番には隠れ家的なお店が多く、以前この場所にあった店も完全に木塀で覆い隠されていました。たこ焼きという業態なので、誰もが入りやすく、自然光が入る明るい空気感にしたいとお願いしました。同時に高級感やきれいさは必要だと思い、店の奥から1本の白木のカウンターが続くイメージを高峯さんに伝えました。

高峯:麻布十番という立地なので、庶民的に偏り過ぎないことは気をつけました。店内は山中さんが描いてくださったラフをベースに4mのカウンターを据えました。高級なイメージを持たせておいて、入ったらそれほど高くないというギャップを戦略にしています。

山中:店舗が出来上がってみたら、寿司屋でもいけそうな雰囲気がありましたね。

高峯:たこ焼きを全面に押し出すのではなく、さりげなく匂わす程度に。ロゴにもこだわっています。真田雪村の結び雁金紋がたこの足のように見えたので、それをモチーフにデザインしました。

山中:私の家紋をベースにしたパターンも提案していただきましたが、現在のロゴマークが一番目を引きました。「たこ」すぎないところが気に入っています。

高峯:スマートなたこ、ですよね。

山中:暖簾にロゴをあしらっていますが、お客様からも「いいですね」と好評です。

――店舗で一番こだわった部分はどこですか?

山中:カウンターの雰囲気ですね。カウンターの幅を広げると席の背後のスペースが狭くなってしまいます。ギリギリのところまで広げてもらいました。窓にはブラインドを取り付ける予定でしたが、簾を提案していただいたら納まりがよくすっきりしました。アルミサッシに木目のテープを貼ってもらうと木のぬくもり感が出て、全体的に調和がとれました。

高峯:動線を確保するために、立ち飲みのようなスタンディングも提案させていただきましたが、ご家族や子どもさんにも来てほしいということでハイカウンターに落ちつきました。天板をひな段状にする案もありましたが、フラットにしたことでお客様との距離感が近づいたと思います。

山中:麻布十番は大人の街なので、お酒とたこ焼きを楽しめる店にしたいという思いはありました。一方で子どもが100円玉を握りしめて買い行くのがたこ焼きのノリなので、そこのバランスは考えましたね。現在は大人のお客様がほとんどですが、子どもたちが部活の後や塾の前にたこ焼きを買いに寄ってくれたらうれしいですね。

たこ焼きを麻布十番の定番に

――麻布十番 たこ十で提供する、たこ焼きのこだわりをお聞かせください。

山中:大阪で食べておいしかった個人経営のたこ焼き店から、粉とたこを取り寄せて本場の味を大切にしています。私の本業は医師ですが、まったくかけ離れたことをするとしても、どちらも完璧でありたいと思っています。分野は違っても、技術職ということではつながる部分もありますので、自分が立っている場面で最高の技術を提供することが大切だと考えています。

高峯:真摯に向き合っていらっしゃいますね。

山中:「趣味でやっているの?」と聞かれることもありますが、ひとつの仕事として真剣に取り組んでいます。お店の設計に始まり、物品の準備、仕入れ、広告、人材の確保・教育などすべてに関わってきましたので、この店のことは隅々まですべて把握しています。

高峯:本業以外に本気で没頭できる仕事があるってカッコいいですよね。

――地域のお客様の反応はいかがですか?

山中:8年前も、この8年間も、麻布十番にたこ焼き専門店はありませんでした。オープンしてみると、麻布十番にたこ焼き店ができるのを楽しみにしていたとよく言われます。チェーン店ではなく大阪のたこ焼きを食べたかったという地元の方も来られますし、関西出身の方も好んで来てくださいますね。リピートしてくださるお客様も結構多いです。ずっと医師であることは言わない様にしていたのですが、少し知られるようになってきて、興味を持って話しかけられることも増えました。

高峯:もはや麻布十番になくてはならない店です。

――今後、麻布十番 たこ十をどのような店にしていきたいですか?

山中:麻布十番のたこ焼きといえば「たこ十」と言われる店にしたいです。次を出店するよりも、ここでしっかり営業して、麻布十番でたこ焼きを食べるという文化を広めたいですね。たい焼きや煎餅の名店があるので、たこ十もそういう店にしたいです。大阪のたこ焼きを謳っていますが、麻布十番らしいオリジナリティも開発したいと思います。

――山中さんから見たエイケーの強みをお聞かせください。

山中:最初のヒアリングからのパースでイメージ以上のものを提案してくれました。私が平面で考えたことが、立体的な空間になったときはすごいと思いました。

――高峯さんから見た麻布十番たこ十と山中さんの強みは?

高峯:2点あって、一つはビジネスをメインとした店づくりではなく、地域の人への思いを込めた経営方針は強みだと思います。もう一つは、お客様との会話も弾み、距離感が近いことがいいですね。地域に求められる店だと思います。

山中:本当は回転がいいほうがいいのでしょうけど(笑)、居心地のよさを感じてもらえるのはよかったです。

高峯:飲食店のデザインを担当する醍醐味は、おいしいものを食べに行けることです。そこに初めてたこ焼きというジャンルが加わりました。山中さんのたこ焼きはソースなしでも味がよくて、いくつでも食べられます(笑)。

山中:お客様の声が聞けるのは、カウンターに立つ醍醐味ですね。

[店舗紹介]
麻布十番 たこ十
麻布十番商店街から路地1本入った七面坂にあるたこ焼き店。大阪から取り寄せた粉とたこを使い、明石焼き器で焼くたこ焼きは、大ぶりでふくよかな味わい。好みでソースやごま油、だし汁(別料金)で。冷えた生姜の甘酢漬けと一緒に食べるのが店主のお勧め。カウンター席で酒と共に楽しむこともできる。

[プロフィール]
山中智哉 麻布十番 たこ十 オーナー 店主
2018年5月、麻布十番で唯一のたこ焼き店を開業。大阪の味にこだわり、自ら厨房に入ってたこ焼きをつくり、接客することもしばしば。本業は産婦人科医で麻布十番でクリニックを経営。異色の二刀流で地域の期待に応える仕事を目指す。

高峯信也 株式会社エイケー デザイナー
インテリア専門学校卒業後、2016年6月にエイケー入社。納得するまでとことんやることをモットーに適正価格を追求。デザイン提案から、施工管理、メンテナンスまで一貫して担当するスタイルで、飲食店を中心に手がけている。