GOOD STORY.03

五代目花山うどん 銀座

ADDRESS

GINZA TOKYO

FLOOR SPACE

83㎡

郷土への想いを店舗デザインに込めて

群馬県館林市に創業して120余年。5代にわたって暖廉を受け継ぐ「花山うどん」。群馬名物ひも川うどんを再び広めようと銀座に進出。郷土への想いを込めた店作りのストーリーを5代目の橋田高明さんに伺いました。

地域のうどんを、全国のうどんに

――東京進出のきっかけからお話しいただけますか。

橋田高明さん(花山うどん代表/以下、橋田。敬称略):群馬名物のひも川うどんは、きしめんとルーツが同じ江戸時代の平打ちうどんです。群馬県はかつて、全国から商人が、生糸の買い付けに訪れる、世界遺産に認定された富岡製糸工場があり、その手土産にひも川うどん持たせていたんです。今はご年配の方は知っていても、若い人にはほとんど知られていないのが悔しくて。もう一度、ひも川うどんを広めようと、国内外から人が集まる銀座に出店しました。

関聡子(エイケー/以下、関):橋田さんは、ご当地うどんの全国大会「うどん天下一決定戦」で3連覇を達成されていますよね。4年目は出なかったのですか。

橋田:はい。おかげさまで殿堂入りしました。郷土のひも川うどんを引っ提げて勝負をしに行っての3連覇なので嬉しいです。群馬のうどん店は県外へ出ていかないので、私がやらなきゃと。同業者からは、花山うどんが東京に出てくれたおかげで、ひも川うどんの知名度が上がったと言われます。だからもっと頑張って、と(笑)。地域を活性化させることが、東京進出のいちばんの想いですね。

――郷土への想いを込めた銀座店のデザインを、エイケーに依頼した理由は?

橋田:銀座に店を出すにあたって、いろいろなサイトを見ました。「この店舗のデザインがいい」と思ったところが、ほとんどエイケーさんだったんです。デザインが頭一つ秀でていましたね。実は、それまでエイケーさんのことはまったく知りませんでした。Webサイトを調べて電話をして、最初に対応してくれたのが関さんでした。

関:橋田さんが、「ここのデザインがよい」と挙げてくれた店舗が、私が初めて担当した飲食店でした。自分がデザインした店舗を見て、問い合わせをしてくれたことがすごく嬉しくて、最高の店舗を作りたいという思いが、より強くなりました。

――銀座店のデザインのコンセプトは?

橋田:群馬県の館林は世界一のつつじの名所なので、それを東京でも表現してほしいと、私から関さんへ伝えました。

関:社名の「花山」は、館林のシンボルでつづじが綺麗な「花山公園」からきており「花山公園のつつじのように永く皆さまに愛されますように」という願いが込められていると伺いましたい。メインデザインは、社名の由来にもなっている花山公園のつつじをグラフィックで描き、館林の世界一のつつじを景色に、本場のひも川うどんを味わっていただきたいと思いました。

――壁面のつつじは見事ですね。最初からここに描こうと決めたのですか。

関:そうですね。店の立地が、東銀座の表通りから一本入った路地なので、店の外からの見え方を意識した時に、いちばんに目線が行くのが、この壁面でした。

橋田:あのとき、久土地さんも来てくれて鋭いなと思ったのは、土地をぱっと見て「ここは看板勝負だね」と言ってくれたことです。

関:そうですね。歌舞伎座を出て角を曲がって来るお客さんが多いので、その動線上からの見え方が大事。「花山うどん」の看板とつつじの画が、同時に目に飛び込んできたら、インパクトがあるね、という話をしました。

橋田:夜はさらに目立ちます。いつもブラインドを上げて、店内の照明を点けて帰るので、閉店後も宣伝になってくれるんですよ。

関:都内初出店ということで、もっと多くの人に花山うどんを知ってもらいたい、館林本店と同じように、たくさんの人に愛されるお店になってほしいという想いが強くあり、
地元で愛されてきた伝統を東京に受けついだお店にしたいと思いました。
館林の自然の息吹が感じられて暖かみのある店舗にしたかったので、壁面アートの色使いをビッグテーブルの台座にも用い、壁面は、シンプルに左官でまとめることで、華やかさと温かみのある空間にデザインしました。

橋田:組子の障子や屋号の磨りガラスなど、細部まで要望に応えてくれて、東京にありながら故郷を感じられる店舗になりました。

時を越えて愛される普遍的な店作り

――店作りのエピソードはありますか。

橋田:私が無理難題を言うので、関さんはたいへんだったと思います。坪数に応じてできるだけ席数を詰め込んでほしいとか、動線を確保したいとか。

関:物販コーナーもありましたよ。

橋田:あと、私のほうからの要望ですが、関さん覚えていますか。うどんを茹でているところが最大の特徴なので、それを絵として見せられるようにしてくださいとお願いしました。

関:もちろん覚えていますよ。橋田さんのリクエストどおり、外の通りからガラス越しに茹釜が見えて、その前にサンプルケースを置いて、茹で上がりがイメージができるようになっています。

橋田:さすが関さん。

関:デザインには自信がありましたが、飲食店の設計は、オペレーションがキーになるので、橋田さんに教わりながら一生懸命にやりました。

橋田:私にとっても銀座は本店に次ぐ2号店。東京初出店で心配も多かったので、関さんが一緒に考えてくれたのがありがたかったです。テーブルの大きさを原寸大の紙で表現してくれたのはわかりやすかったですね。

関:テーブルが狭く感じられるんじゃないか、動線が取れないんじゃないかなど、いろいろ悩みました。

橋田:たぬきの器が大きめですからね。「分福茶釜」のお寺が館林にあるんですよ。

関:工事中も橋田さんが館林から通ってくださり、一緒に作ってきた店舗なので、とても愛着があります。

――銀座店と同じコンセプトで、本店販売所もデザインされたのですか。

橋田:はい。販売所とアゼリア店をエイケーさんにお願いしました。銀座の店舗を本店に持ってきてもぜんぜん浮いていません。東京で流行りのデザインをしている設計会社はたくさんありますが、私は群馬にリトルトーキョーを作りたくはないんです。時代の流行り廃りのない店舗にしてもらっていると感じました。ありがたいですね。

想いを受け継ぎ、時代はめぐる

――「花山うどん」は創業120余年の老舗ですが、初代から変わらず受け継いでいることは何ですか。

橋田:私は5代目ですが、3代目の祖父からよく言われたのが「大量生産はするな」。お客様に提供するものは自分たちの目の届く範囲でぜんぶ作りなさいと。群馬の自社工場で製麺し、輸送費をかけてでも直送してもらっています。館林は利根川と渡良瀬川が水源の地下水なので、うどん作りに適しているんですよ。

――東京進出にあたって変えたこともありますか。

橋田:本店では郷土食のお切り込みなど、伝統的な料理を提供していますが、銀座店では郷土食を生まれ変わらせる試みとして、アレンジしたメニューも出しています。それが、「丸ごと玉葱の南極カレーつけうどん」、ディナー限定で提供している鬼ひも川を使った「鬼ボナーラ」です。

関:鬼ボナーラは女性に人気ですね。私はカレーつけうどんが好きです。

橋田:この店は関さんがデザインしてくれたこともあって、入った瞬間に寛げて、女性のお客様が一人でご利用してくださいます。女性が一人でも入りやすいうどん店は、意外とないんですよ。店舗の用途も広く、一人でも楽しめますし、小上がりでコース料理を予約してくれるお客様もいます。アンテナショップとしての銀座店なので、幅広いお客様をとらえたいという目的にかなっていますね。今後、店を出していく際は、用途によって銀座店の良さをすっぽり抜いて尖らせていきたいです。

――次の出店はどこを考えていますか。

橋田:羽田空港の国際線ターミナルへの出店が決まっています。外国のお客様が日本に到着したときに初めにお迎えする飲食店になります。私の祖父にあたる3代目によく言われたのが、「銀座で通じればいっぱし」。その銀座でやらせていただいたので、次は日本橋に出店したいです。初代が日本橋で乾物問屋をやっていたのが120余年前。初代が食材に触れさせていただいた日本橋は絶対に出店したいです。

――橋田さんから見たエイケーの強みは?

橋田:私がこうしたいと思うことを、30%話せば汲み取ってくれます。例えば、クロスを選ぶのにサンプルをどっさり持ってきてどれがいいかと聞かれても困りますが、関さんはコンセプトに合わせて3パターンに絞り込んで提示してくれました。デザインに関してこちらから言うことはほぼありません。社内にいるようにとても身近なお取引先です。

――関さんから見た花山うどんの魅力は?

関:橋田さんと同じ人柄の良さが、社内のどの方にも表れています。銀座店のスタッフ、催事のご担当、館林の店長、どなたに会っても対応がよくて、何でもしてあげたくなります(笑)。橋田さんの人柄に甘えさせていただいているところもありますが、一つのチームのように感じています。

橋田:「花山うどんはチームである。チームであるから花山うどんである」と謳っていますから。

関:橋田さんの思いが社員の方にも伝わって、「花山うどん」に対する自信ともっと行きたいという勢いをすごく感じます。弊社の久土地も「店舗デザイン」に対する自信と、勢いがあり、代を受け継いで事業を発展させていきたいと考えていらっしゃるところが似ているなと思っていました。

橋田:私も世代的に近いことに親近感を持っています。エイケーさんとならどんどん行けそうです。

関:どんどん行きましょう。

以下、プロフィール

[店舗紹介]
五代目 花山うどん 銀座
明治27年創業。群馬県館林市で120余年続くひも川うどん専門店。オリジナルの幅5cmの鬼ひも川が看板料理に、2016年10月、東京・銀座に初出店。自社製麺所から直送されるうどん、群馬県産の食材を使用して郷土の味を伝えている。銀座店、アゼリアモール店(館林市)に次いで、羽田空港国際ターミナル店をオープン予定。

[プロフィール]
橋田高明(写真:右)
花山うどん 代表
明治創業、花山うどんの5代目。2代目が開発した鬼ひも川を復刻させ、うどんの日本一を決める「うどん天下一決定戦」で、2013年の第1回大会から15万人のお客様投票により3年連続グランプリを獲得。2016年に東京・銀座に進出。故郷・群馬県名物、ひも川うどんを世に広めるべく商い中。

関聡子(写真:左)
株式会社エイケー クリエイティブディレクター
グラフィックデザイナーとして経験を積んだのち、空間デザイナーとしてエイケーに入社。顧客の事業に貢献できる仕事を目指す。グラフィックで培った細やかな感性を、店舗空間に昇華させている。商業施設士。