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内装制限とは?対象や注意点など建築基準法を解説
内装制限は公共施設の設計を行う際に重要なポイントとなり、内装仕上げ材の選定に影響をあたえます。
建築基準法による使用制限が関係しますが、複雑なうえに多岐にわたる条文は、簡単に理解できるものではありません。 法令を遵守したうえで希望するデザインが実現できるのか、困っている人も多いでしょう。
この記事では建築基準法における「内装制限」について、基本的な知識から緩和条件、2025年の建築法改正まで詳しく解説します。
内装制限とは
内装制限とは、建築基準法で定められている内装材に関する規定のことをいいます。
主に対象となるのは壁や天井で、火災発生時に建物内の人々の安全を守ることを目的としています。
不特定多数の人が利用する店舗や病院、展示場などで火災が発生した場合に、建物に使用されている内装材によって火が広がる速度や煙の流れなどが異なります。
対象となる建築物では、基準に適合した建材を使用しなければなりません。
設計やデザインに携わる方だけでなく、新築住宅やリフォームを検討している方も知っておくと依頼する際に役立ちます。
下地も対象となる建物がある
内装制限といえば、一般的には壁や天井の仕上げ材が対象とされていますが、建物によっては下地材も対象となることがあります。
例えば、11階以上の建築物や地下街では、壁や天井に不燃材を使用することが義務付けられており、この場合は仕上げ材だけでなく下地材にも不燃性能が求められます。
建物の種類 | 居室 | 通路・階段 |
階数が11階以上の建物 | 壁:準不燃以上 | 壁:準不燃以上 |
階数が11階以上の建物 | 壁:不燃以上 | 壁:不燃以上 |
地下街 | 壁:準不燃以上 | 壁:準不燃以上 |
地下街 | 壁:不燃以上 | 壁:不燃以上 |
非常用エレベーター乗降ロビー | 壁:不燃以上 | 壁:不燃以上 |
対象外とされる壁や天井がある
建物の規模や用途により、壁や天井には不燃・準不燃といった防火材料の使用が求められる「内装制限」が設けられています。しかし、全ての内装材が対象となるわけではありません。
対象外になるものは、以下の通りです。
● 腰壁(床から1.2m以下の壁面) ● 回り縁(壁と天井の取り合い部分に用いられる仕上げ材) ● 窓枠(窓の周囲を縁取る部分) ● 窓台(窓の下部に取り付けられる横材) ● 巾木(床と壁の境目を仕上げる細長い部材) |
内装制限を受ける建築物
内装制限を受ける建築物に関しては、「建築基準法・施工令128条の4」 「建築基準法・施工令129条」によって規定されています。
対象となる4種類の建築物について解説します。
特殊建築物
内装制限の対象となる特殊建築物は、制限を受ける建物の規模によって異なり、以下のように分類されます。
- 劇場・映画館・演芸場・集会場など
- 病院・診療所・ホテル・旅館・共同住宅など
- 百貨店・マーケット・展示場・カフェ・ナイトクラブなど
- 自動車倉庫・修理工場
上記以外にも対象建築物があるほか、対象の建物でも規定が細かく定められているため、部分的に対象外となることもあります。
大規模建築物
特殊建築物は、次の3段階に分類されています。
1.3階以上で延べ面積500㎡を超える建物
2.2階で延べ面積1,000㎡を超える建物
3.1階で延べ面積3,000㎡を超える建物
上記の条件に該当する建物であれば、種類は問われず、戸建て住宅やビルでも対象になります。
しかし、学校や体育館などは例外で対象外です。
火気使用室
火気使用室の内装制限は、耐火構造になっているかどうかで違いがあります。
建物が耐火構造となっていれば、制限の対象外です。
耐火構造でない建物では、コンロやかまどが設置されている部屋が内装制限の対象となります。
ただし、緩和規定があり、2階建て以上の建物では1階のみが対象で、平屋の建物は対象外です。
無窓居室
50㎡以上の部屋で、「床面積の2%以下で天井下80cm以内の高さ」の位置に窓が無い建物は内装制限の対象です。
これは、火災が起きた際に、煙を逃せるかどうかがポイントとなっています。
対象となるのは、当該の部屋と外部に出られる廊下や階段です。
内装制限範囲に使われる材料について
内装制限範囲には防火材料が使用されますが、防火材料は3種類あります。
それぞれの防火材料がどのようなものか、一つずつ見ていきましょう。
防火材料の要件について
防火材料の要件は、以下の条件をキープできる時間によって、分類されています。
● 高熱にさらされても燃焼しない ● 高熱にさらされても変形・融解・亀裂・損傷が起こらない ● 高熱にさらされても有害なガスが発生しない |
上記は、火災が起きた際に避難の妨げにならないための条件で、国土交通大臣の認定による時間ごとの要件は以下の通りです。
防火材料の条件をキープできる時間 | 防火材料の種類 |
加熱開始後20分間 | 不燃材料 |
加熱開始後10分間 | 準不燃材料 |
加熱開始後5分間 | 難燃材料 |
防火材料一覧
3種類の防火材料について解説します。
不燃材料
不燃材料は、火災による加熱で20分以上燃焼しないことが要件とされています。
防火性が高く、変形や溶融、亀裂といった損傷が生じず、避難時に有害な煙やガスを発生しない材料です。
主な不燃材料は、コンクリート・レンガ・金属板・アルミニウム・石・繊維強化セメント板などです。
準不燃材料
火災の加熱で10分以上燃焼しないものは、準不燃材料とされています。
変形、溶融、亀裂などの損傷を防ぎ、避難時に有害な煙やガスを発生させない、高い防火性能を持つ素材です。
厚みのある石膏ボードや木片セメント板などが該当します。
難燃材料
加熱を始めて5分以上キープできれば、難燃材料とされています。
防火性能が高く、変形や溶融、亀裂などの損傷を防ぎ、避難時に有害な煙やガスを発生させない安全な材料です。
主な難燃材料は、厚みのある難燃合板や石膏ボードです。
内装制限が緩和される条件
2020年4月に建築基準法が改正され、条件を満たせば内装制限が緩和され、内装に使用する材料を自由に選べる可能性が高まりました。
緩和の条件について解説します。
天井が高い建築物
火災が起きた時に、煙は高い場所へ向かって流れます。
天井が高ければ、煙が充満するのに時間がかかり、避難できる可能性が高まるため、天井の高さが3m以上あれば内装制限緩和の対象です。
ただし、いくつか注意点があります。
場所は床面積が100㎡以内の居室に限られていて、避難通路など部屋以外の場所には適用されません。
また、病院や診療所など、対象外となる場所があります。
警報設備とスプリンクラーを設置した建築物
警報装置に加えて、スプリンクラーが設置されている500㎡以内の建築物は、内装制限が緩和される可能性があります。
内装制限の条件は、避難階であることや避難階の直上階であること、屋外への出口があり簡単に道路へ避難できることです。
場所は居室に限らず、避難通路でも適用されます。
スプリンクラーと天井のみ内装制限をした建築物
スプリンクラーが設置されていて、天井に準不燃材以上の防火材料が使用されていると、内装制限が緩和される対象となります。
ただし、対象外となる建物があります。
窓がない無窓居室や自動車工場、修理工場などの特殊建築物、火気を使用する場所が挙げられます。
スプリンクラーと排煙設備を設置した建築物
スプリンクラーと排煙設備の両方が備わっている建物も内装制限緩和の対象です。
そのほかに付随した条件がないため、無窓居室や特殊建築物、火気を使用する場所も対象となります。
2025年の建築基準法改正による影響
2025年4月1日施行の建築基準法改正では、大規模建築物での防火規定が変更されました。
法改正による変更点や、内装制限にどのような影響があるのかを解説します。
改正による変更点
建築基準法では、以前は大規模木造建築で壁や柱を耐火構造にするとき、木材部分を不燃材料で覆うことと規定されていました。
石膏ボードなどで覆うため、木の風合いをインテリアに活かすことができませんでした。
今回の法改正では、構造部材に木材を使用する場合、3,000㎡を超える大規模建築物でも木材を不燃材料で覆う必要がなくなりました。
柱や梁などに使用する木質構造部材をそのまま見せるデザインの内装が可能になります。
ただし条件があり、火災が起きた際に大規模な危害が周囲に及ぶことを防げる構造であることです。
例えば、断面部分が大きい木材を使用して「燃えしろ厚さ」を確保して延焼を防ぐ方法があります。
内装制限への影響
建築基準法改正前は、大規模木造建築物で壁や柱を耐火構造にする場合は、木材を不燃材料で覆う必要がありました。
そのために、インテリアで木材の良さを活かせず、意匠面でメリットが見られませんでした。
法改正によって、大規模建築物でも木材を覆わずに使えるようになり、今後は木の温かみを活かしたインテリアデザインが増えるのではないでしょうか。
ただし、全ての建築物で内装制限が緩和されるわけではなく、今回の改正で内装制限が緩和されるのは3,000㎡を超える大規模建築物です。
3000㎡以内の建築物では、今後も防火材料の使用を必要とする範囲に変更がありません。
消防法による内装制限との違い
内装制限は、建築基準法だけでなく消防法でも定められています。
消防法と建築基準法の内装制限には違いがあるため、相違点について解説します。
「内装制限」消防法と建築基準法との違い
消防法と建築基準法のいずれも、火災時の安全確保を目的に内装制限が定められています。
ただし、具体的な目的には違いがあります。
消防法では火災の予防と消火活動のための内装制限であるのに対し、建築基準法では火災が起きた際、初期に避難経路を確保するための内装制限です。
また、消防と建築という業種の違いにより、内装制限にも違いが見られます。
壁を例に挙げると、建築基準法では床から1.2m以下の腰壁が内装制限の対象外となるのに対し、消防法では壁面全体が内装制限の対象です。
以下が、消防法における内装制限です。
● 火災予防と消火活動が行いやすい建築構造である ● 警報設備を設置する ● 消火栓を設置する ● 火災の煙を排除する設備を設置する ● 絨毯やカーテンの指定 |
絨毯やカーテンの指定とは、燃えにくい素材であることや、防火・防炎の機能が備わっていることが求められます。
消防法と建築基準法で内装制限が定められている理由
消防法と建築基準法では、なぜ内装制限があるのでしょうか。
内装制限を定める理由について解説します。
消防法が内装制限を定める理由
消防法では、火災を予防するためと、火災が起きた場合に初期鎮火をするために内装制限が定められています。
内装制限の基準をクリアしていれば、火災の際に効率的な消火ができ、人命救助に効果が期待できるでしょう。
壁紙や床材などを耐火性にすぐれた素材を選択したり、消火に関わる設備を設置したりする方法があり、消火栓の設置は義務付けられています。
建築基準法が内装制限を定める理由
建築基準法では、火災が起きた場合に初期段階で安全に避難できるよう、内装制限が定められています。
建材に耐火性があれば、火が発生しても初期の急速な広がりを抑えられ、避難する時間を確保するためです。
対象となる建築物が指定され、床面積や階数に応じて、具体的な内装制限が細かく定められています。
規模が大きい建築物や多くの人が集まる場所、窓がない・火気を扱うなどの火災リスクが高い場所ほど、内装を大きく制限されます。
まとめ
内装制限とはどのようなものか、建築基準法における内装制限を中心に、消防法についても解説しました。
店舗などを新しく建築する場合、イメージする内装を必ず実現できるとは限らず、内装制限によって諦めなければならないケースがあるのです。
設計を始める前に内装制限について知っておくと、可能な内装と不可能な内装がわかり、イメージ通りの内装にできない場合の代替え案を見つけられるかもしれません。
内装を計画する際、最初から制限を考慮に入れておけば、後々の変更や再設計を避けることができます。
法令順守と理想の内装を両立させるためにも、内装制限についてチェックしておきましょう。
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