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内装工事における減価償却の考え方は?耐用年数や注意点も解説
内装工事にかかった費用は一定の条件を満たせば減価償却の対象となり、経費として計上できます。
しかし「どの勘定科目に分類すれば良いのか分からない」「耐用年数は何年?」など、さまざまな疑問を抱くでしょう。
本記事では、内装工事費用の減価償却に関するポイントや注意点を詳しく解説していきます。
さらに具体的な例を3つ紹介しながら分かりやすく説明していくため、ぜひ参考にしてください。
内装工事の減価償却とは
内装工事費は高額なため、一度の支出で全額を経費計上するのではなく、耐用年数に応じて減価償却することが求められます。
減価償却によって毎年の経費を分散できるため、節税効果も期待できます。
また、事業運営においては、適切な会計処理を行うことが企業の財務健全性を保つためにも重要です。
まずは減価償却とは何か確認していきましょう。
減価償却とは?
減価償却とは長期間使用する資産にかかった費用を、耐用年数にわたって分割して経費計上する会計処理です。
建物や設備などの資産は時間の経過とともに劣化して価値が減少するため、それに応じた経費計上が求められます。
内装工事も対象となり、国税庁の規定に従って適切に処理する必要があります。
減価償却のメリット
減価償却を行うメリットは以下の通りです。
- 高額な費用を一括計上するのではなく数年にわたり経費計上すると、毎年の税負担を軽減できる
- 会計上、収益と費用のバランスを保つことで経営が安定する
- 一括計上による大幅な利益変動を防ぎ、資金計画が立てやすくなる
- 計画的な費用管理が可能となり、財務諸表の透明性がアップする
少々面倒に感じるかもしれませんが、減価償却を行うと節税効果や財務の安定化など、さまざまなメリットを享受できます。
減価償却資産の耐用年数について
内装工事の耐用年数は国税庁の定める基準に従います。
以下では耐用年数を表にして解説していきます。
内部造作物の耐用年数
内部造作物とは、建物の内部に設置される造作のことです。
作り付けの家具や棚などが該当し、建物の種類によって耐用年数が異なります。
建物の構造 | 店舗用 | 事務所用 | 飲食店用 |
鉄筋コンクリート | 39年 | 50年 | 34年または41年 |
ブロック・レンガ・石 | 38年 | 41年 | 38年 |
木造 | 22年 | 24年 | 20年 |
内装用の電気機器の耐用年数
内装用の電気機器とは照明器具やインターホンなど、電気を使用する設備のことを指します。
用途 | 細目 | 耐用年数 |
電気・照明設備 | 蓄電池電源設備 | 6年または15年 |
事務・通信機器 | インターホン | 6年 |
冷暖房機器 | 冷暖房設備 | 6年 |
耐用年数は資産の種類や使用環境によって異なるため、具体的なケースは専門家に相談することをおすすめします。
参照:国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」
内装工事に関する勘定科目
内装工事費用を計上する際には、適切な勘定科目を選ぶ必要があります。
ここでは、以下4つの代表的な勘定科目を紹介します。
- 建物
- 建物付属設備
- 工具器具備品
- 消耗品費
1つずつ解説していくため、確認していきましょう。
建物
建物とは、建物の構造に直接関わる工事のことです。
具体的には壁や床、天井の固定工事、防水工事、ガラス工事などが該当します。
間仕切りを設置する場合、固定されていて移動ができないものは「建物」として計上されます。
建物の耐用年数は鉄筋コンクリート造や木造など、構造によって異なる点に注意してください。
建物付属設備
建物付属設備とは、建物本体に取り付けられているが、独立した機能を持つ設備のことです。
たとえば、照明設備や空調設備、給排水設備、通信設備、ガス設備などが該当します。
これらは「機械設備」としての性質を持ち、建物とは区別される点が特徴です。
耐用年数は設備ごとに異なり、冷暖房設備は13年、給排水設備は15年です。
工具器具備品
工具器具備品とは、建物に固定されていないが業務運営に必要な物品を指します。
たとえば事務所のデスクや椅子、パソコン、電話機、レジスターなどが含まれます。
一般的に10万円以上のものは減価償却資産として扱われ、耐用年数は事務機器なら5年、什器や家具は10年程度です。
消耗品費
消耗品費とは、取得価格が10万円未満、または耐用年数が1年未満の物品を指します。
たとえば、移動可能なパーテーションや短期間で交換が必要な備品が該当します。
消耗品費として処理すると、減価償却を行わずに即時経費計上が可能です。
減価償却の計算方法2つ
減価償却には「定額法」と「定率法」の2つの方法があり、それぞれ計算方法が異なります。
ミスなく計算するためには、オンラインで利用できる会計ツールの活用がおすすめです。
以下で具体的な計算式を紹介するので、参考にしてください。
定額法
定額法は毎年一定額の減価償却費を計上する方法で、計算式は以下の通りです。
- 減価償却費=取得価額×償却率
たとえば、取得価額500万円で耐用年数10年の資産であれば、償却率は1/10(10%)です。
この場合、毎年の減価償却費は500万円×10%=50万円となり、10年間同じ額を計上します。
参照:No.5410 減価償却資産の償却限度額の計算方法(平成19年4月1日以後取得分)
定率法
定率法は未償却残高に一定の率を掛けて計算する方法で、初年度の減価償却費が多く、年々減少するのが特徴です。
計算式は以下の通りです。
- 減価償却費=未償却残高×償却率
たとえば、取得価額300万円で償却率20%の場合、初年度の減価償却費は300万円×20%=60万円となります。
次年度は未償却残高240万円に20%を掛けるため、償却費は48万円となり、年々減少していく計算です。
この方法を用いると取得初年度の減価償却費が大きくなり、資産購入直後の会計年度における税負担が軽減される効果があります。
内装工事に関する減価償却の例を3パターン紹介!
内装工事の具体的な減価償却処理について、以下の3つのケースを紹介していきます。
- 例1.カフェ開店時の内装基礎工事
- 例2.レストランの照明設備リニューアル
- 例3.事務所退去時の原状回復工事
事例をもとに、詳しい記帳方法をみていきましょう。
例1.カフェ開店時の内装基礎工事
カフェを開店する際に、壁や天井の骨組みを形成する軽鉄工事を実施し、費用として50万円(仮設工事10万円、軽鉄工事40万円)を普通預金から支払った場合の仕訳は、以下のとおりです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
建物 | 50万円 | 普通預金 | 50万円 |
※軽鉄工事とは内装の骨組みを形成する工事であり、建物として計上します。
例2.レストランの照明設備リニューアル
レストランの改装に伴って照明設備の更新工事を行い、代金20万円を普通預金から支払った場合の仕訳は以下の通りです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
建物付属設備 | 20万円 | 普通預金 | 20万円 |
照明設備などの建物に付属する設備の工事を行った場合は、「建物付属設備」として計上してください。
例3.事務所退去時の原状回復工事
オフィス移転に伴って原状回復工事を実施し、費用200万円を敷金150万円と相殺し、50万円を普通預金から支払った場合の仕訳は以下のようになります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
修繕費 | 200万円 | 敷金 | 150万円 |
|
| 普通預金 | 50万円 |
原状回復工事は、収益的支出(元の状態に戻すための費用)に該当するため、「修繕費」として経費計上するのが特徴です。
中古物件の内装工事で減価償却する場合
ここでは、中古物件を内装工事した際の減価償却の方法を紹介していきます。
以下で計算式や勘定科目、計上方法を解説するので参考にしてください。
中古物件を減価償却する際の計算式
中古物件の減価償却は、新築物件とは異なる計算方法を用いる必要があります。
法定耐用年数の一部を経過している場合、以下の計算式を使って耐用年数を求めます。
実際の計算式は以下です。
ケース | 計算式 | 例 |
法定耐用年数の一部が 経過している場合 | (法定耐用年数 – 経過年数)+ (経過年数 × 0.2) | (47年 – 20年) + (20年 × 0.2)=31年 |
法定耐用年数を すべて経過している場合 | 法定耐用年数 × 0.2 | 22年 × 0.2=4年 |
上記の通り、法定耐用年数の一部が経過している場合は、残存年数に20%を加算することで耐用年数を求めます。
たとえば、築20年の鉄筋コンクリート造(法定耐用年数47年)の場合、耐用年数は31年です。
法定耐用年数をすべて経過している場合は、法定耐用年数に0.2を掛けた年数が適用されます。
もしも、法定耐用年数22年の木造建物がある場合、耐用年数は4年となります。
中古物件を減価償却する際の勘定科目や計上方法
中古物件の減価償却を行う際には、「直接法」または「間接法」を用います。
直接法では、減価償却費を「建物」勘定から直接差し引く方法を採用します。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
減価償却費 | 500,000円 | 建物 | 500,000円 |
資産価値が減少したことを明確に示せる点が特徴です。
間接法では、減価償却費を「減価償却累計額」勘定に記録し、これまでの減価償却費の総額を明示します。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
減価償却費 | 500,000円 | 減価償却累計額 | 500,000円 |
資産の元の取得価額が維持されつつ、減価償却費の蓄積を示すのが間接法の特徴です。
内装工事の減価償却における注意点
内装工事の費用を減価償却する際には、適切な判断基準を用いて処理を行う必要があります。
特に以下4つのポイントを押さえておくことが重要です。
- 修繕費と減価償却の判断基準
- 減価償却の開始時期
- 所有者によって耐用年数が異なる
- 白色申告の個人事業主・フリーランスは特例が認められない
順に解説していきます。
修繕費と減価償却の判断基準
内装工事の費用が修繕費として処理できるか、もしくは資本的支出として減価償却する必要があるかの判断基準は以下のとおりです。
判断基準 | 修繕費 | 減価償却資産(資本的支出) |
費用が20万円未満 | ○ 修繕費 | – |
3年以内の周期で行われる修理 | ○ 修繕費 | – |
明らかに価値を高める工事 | – | ○ 減価償却 |
耐久性を向上させる改修 | – | ○ 減価償却 |
通常の維持管理や原状回復 | ○ 修繕費 | – |
60万円未満の工事 | ○ 修繕費 | – |
取得価額の10%以下の工事 | ○ 修繕費 | – |
修繕費に該当するのは資産価値を高める目的ではなく、現状維持や原状回復を目的とした工事です。
減価償却資産に該当するのは、耐用年数を延ばしたり、資産価値を向上させたりする工事といった点を覚えておきましょう。
なお、一部例外の場合もあるため専門家に相談することをおすすめします。
減価償却の開始時期
減価償却は、購入した時点ではなく実際に使用を開始した日(事業の用に供した日)から計算を開始します。
状況 | 減価償却の開始時期 |
購入後すぐに使用可能な資産 | 購入時 |
設備の設置・工事が必要な場合 | 実際に使用開始した日 |
工事期間中の資産 | 完了し、使用を開始した日 |
たとえば、事務所のデスクやパソコンなどは購入後すぐに使用できるため、その時点から減価償却を開始します。
一方で、設備工事や内装工事が必要な場合は、工事が完了して実際に使用を開始した日が減価償却のスタートです。
所有者によって耐用年数が異なる
内装工事の減価償却は、建物の所有者が自社か賃貸物件の借主かによって、耐用年数が異なります。
所有形態 | 耐用年数の考え方 |
自社所有の建物 | 建物本体や建物附属設備の耐用年数に基づく |
賃貸物件の借主が実施する内装工事 (造作) | 独立した資産として耐用年数を設定 |
賃貸物件の建物附属設備の改修 | 建物附属設備の耐用年数に基づく |
賃借期間が短い場合 | 賃借期間内で償却することが可能な場合もあり |
自社所有の建物に対する内装工事費は、その建物の耐用年数に従います。
新築と中古では耐用年数が異なる点にも注意が必要です。
賃貸物件での内装工事(造作)は、通常の建物耐用年数とは異なり、別の耐用年数を設定します。
白色申告の個人事業主・フリーランスは特例が認められない
青色申告をしている場合は少額減価償却資産の特例を利用できますが、 白色申告では適用されません。
申告形態 | 少額減価償却資産の特例 |
青色申告 | ○ 適用可能 (30万円以下の資産を一括経費計上可) |
白色申告 | × 適用不可 |
一括償却資産(10万円以上20万円未満) | ○ 3年間で均等償却 |
青色申告では30万円以下の資産を取得した場合、一括で費用計上できる「少額減価償却資産の特例」があります。
ただし、年間合計300万円までの上限がある点に注意が必要です。
白色申告ではこの特例が適用されないため、減価償却のルールに基づいて処理を行う必要があります。
一括償却資産(10万円以上20万円未満)は、青色・白色どちらの申告形態でも利用でき、3年間で均等に償却されるのが特徴です。
まとめ
内装工事の減価償却を正しく処理することで適切な会計管理ができ、節税効果を最大限に活用できます。
修繕費として経費計上するべきか、減価償却資産として資産計上するべきかを判断し、耐用年数や計算方法を正しく理解することが重要です。
また、減価償却の開始時期は工事完了後、実際に使用を開始した日 からとなるため、適切なタイミングで処理を行う必要があります。
さらに、所有形態によって耐用年数が異なり、賃貸物件では造作の耐用年数を個別に設定する必要がある点にも注意しましょう。
内装工事の減価償却を適切に行うことで、企業の財務管理を健全に保ち、無駄な税負担を回避できます。
事業の成長や資金繰りを安定させるためにも、本記事で解説したポイントを活用し、正確な会計処理を実践しましょう。
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